サロンの回数券や、カフェで利用できるクーポン券など、お店でのみ利用できる回数券・クーポン券を販売している個人事業主の方もいらっしゃると思います。
例えば、
・10回分の料金で11回施術が受けられる回数券
・5杯分の料金で6杯分利用できるコーヒークーポン
のようなものです。
このような回数券・クーポン券について、会社(法人)では、決算日時点でまだ利用されていない分を前受金として処理することが一般的です。
一方、個人事業でも同様の処理は認められていますが、そのためにはあらかじめ所轄税務署長の確認を受けることが必要になります。
これは、所得税基本通達(法律ではないですが国税庁に記載のある税のルール)の36・37共-13の2「商品引換券等の発行に係る対価の額の収入すべき時期」において、
「あらかじめ所轄税務署長の確認を受けるとともに、その確認を受けたところにより継続してこれを経理する場合」
と書かれているためです。
しかし、この税務署長の確認を受けるための具体的な方法や届出書の書式については見当たりませんでした。
そのため、所轄税務署へ「所得税基本通達36・37共-13の2の確認を受けたい」と相談し、必要な手続きを行った結果、無事に通達の適用が認められました。
今回は、その際の経験を実務メモとしてまとめています。
なお、税務署によって運用が異なる可能性がありますので、実際に手続きをされる際は、所轄税務署へご確認ください。
簿記・会計では前受金として処理する
自分のお店専用の回数券やクーポン券を販売した場合、その時点ではまだ商品を販売したり、サービスを提供したりしたわけではありません。
そのため、簿記・会計では、回数券やクーポン券の販売時点では売上高ではなく「前受金」として処理することになります。
例えば、回数券を現金や銀行振り込みで販売した場合は、その時に次の処理をします。
借方 現金預金 / 貸方 前受金
その後、お客様が実際に回数券やクーポン券を利用して商品を購入したり、サービスを受けたりした時点で、次の処理をします。
借方 前受金 / 貸方 売上高
有効期限を過ぎて利用されなくなった回数券・クーポン券については、その期限切れ時点で売上として計上することになります。
この考え方は、簿記を学ばれた方であれば比較的よく知られている処理です。
この前受金処理を行うことで、まだサービスを提供していない部分については、その年の売上高に計上せず、実際に役務提供を行った年へ収入計上を繰り延べる(後回しにする)ことができます。
また、法人と個人事業で会計処理をそろえることができるため、法人の経理に慣れている方にとっても運用しやすい方法といえます。
そして、会計上や法人税では、このような前受金処理を行うことについては、この経理処理を継続して行っていれば特に問題はありません。
ただし、所得税では「継続して経理すること」だけではこの方法が認められません。
所得税基本通達36・37共-13の2に「あらかじめ所轄税務署長の確認を受けること」が要件となっているからです。
所得税では税務署長の確認が必要
所得税では、回数券やクーポン券などの商品引換券等について、一定の要件を満たす場合には、商品引換券等の販売時ではなく、その商品引換券等の使用によって実際に商品を引き渡した日やサービスを提供した日に収入計上することが認められています。
その根拠となるのが、所得税基本通達36・37共-13の2「商品引換券等の発行に係る対価の額の収入すべき時期」です。
商品の引渡し又は役務の提供(以下この項において「商品の引渡し等」という。)を約した証券等(以下36・37共-13の3において「商品引換券等」という。)を発行するとともにその対価を受領した場合における当該対価の額は、その商品引換券等を発行した日の属する年分の総収入金額に算入する。ただし、その者が、商品引換券等(その発行に係る年ごとに区分して管理するものに限る。)の発行に係る対価の額をその商品の引渡し等(商品引換券等に係る商品の引渡し等を他の者が行うこととなっている場合における当該商品引換券等と引換えにする金銭の支払を含む。以下この項において同じ。)に応じてその商品の引渡し等のあった日の属する年分の総収入金額に算入し、その発行に係る年以後4年を経過した年(同年前に有効期限が到来するものについては、その有効期限の翌日の属する年とする。)の12月31日において商品の引渡し等を了していない商品引換券等に係る対価の額をその12月31日の属する年分の総収入金額に算入することにつきあらかじめ所轄税務署長の確認を受けるとともに、その確認を受けたところにより継続して総収入金額に算入している場合には、これを認める。(昭55直所3-19、直法6-8追加、平5課所4-1改正)
所得税基本通達36・37共-13の2 商品引換券等の発行に係る対価の額の収入すべき時期
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/05/14.htm
この通達では、一定の要件を満たす場合には販売時ではなく商品引換券等の利用時などに収入計上することが認められていますが、その条件として、「あらかじめ所轄税務署長の確認を受ける」と書かれています。
長い文章ですが、終わり頃にあります。
ところが、わたしが調べた限りでは、この「確認」をどのように受けるのか、どのような書類を提出すればよいのかについての具体的な情報は見当たりませんでした。また、国税庁ホームページにも書類などは掲載されていませんでした。
そこで、所轄税務署へ問い合わせを行い、所得税基本通達36・37共-13の2の確認を受けたい旨を相談しました。
その結果、税務署からは、「具体的な書式はないため、次のような内容を記載して提出してほしい」との説明を受けました。
- 納税者の住所・氏名(事業所・自宅)
- 関与税理士の住所・氏名
- 所得税基本通達36・37共-13の2ただし書きの適用を受けたい旨
- 商品引換券等の名称
- 有効期限
- 管理方法
今回は、これらの内容をまとめた書類を提出し、所得税基本通達36・37共-13の2の適用について確認を受けることができました。
実際に提出した届出書(サンプル)
※以下は実際に提出した内容をもとに、一部の住所・氏名・商品名などを変更したサンプルです。
所得税法基本通達36・37共-13の2ただし書きの適用に関する届出書(確認書)
令和〇年〇月〇日
〇〇税務署長 殿
<納税者>
事業所所在地:〇〇県〇〇市〇〇1-2-3
住所:〇〇県〇〇市〇〇4-5-6
屋号:サロン〇〇
氏名:〇〇
<関与税理士>
事務所所在地:〇〇県〇〇市〇〇7-8-9
氏名:〇〇
所属:〇〇税理士会〇〇支部 登録番号〇〇
Ⅰ 届出の趣旨
当方は、回数券・クーポン券(以下「商品引換券等」という。)を発行しております。
これらの商品引換券等の発行に係る対価の額について、所得税法基本通達36・37共-13の2「商品引換券等の発行に係る対価の額の収入すべき時期」ただし書きの適用を受け、商品引換券等を販売した日の属する年分ではなく、実際に役務の提供を行った日の属する年分の総収入金額に算入する方法により所得金額の計算を行うことにつき、あらかじめ所轄税務署長の確認を受けるため、ここに届け出ます。
Ⅱ 商品引換券等の内容
1 回数券
・正式名称:11施術回数券
・回数:11回
・販売金額(税込):20,000円
・有効期限:6か月後の月末
2 コーヒークーポン
・正式名称:コーヒーチケット
・回数:6回
・販売金額(税込):1,000円
・有効期限:3か月後の月末
Ⅲ 商品引換券等の管理方法
1 回数券
店舗にて紙の用紙で発行し、エクセルで以下を管理しております。
・回数券のロット番号
・販売日
・販売担当者名
・利用客氏名
・各回の利用日
2 コーヒークーポン
クーポンはスマートフォンアプリ〇〇を使用して販売しています。
販売数、使用数、未使用数は常時アプリの管理画面にて確認しております。
3 管理資料の保存
回数券およびクーポン券に関する管理資料は、日常的には納税者が確認・管理しており、税理士は日常的に確認していませんが、決算・申告の際には税理士が確認可能な状態で保存されています。
Ⅳ 収入計上方法
商品引換券等の販売に際して受領する金額のうち、その販売した日の属する年分の12月31日において役務提供が未了である部分については、当該年分の会計上、前受金として処理します。
実際に役務の提供を行った日または有効期限が到達した日の属する年分において、当該前受金を総収入金額に算入する方法で会計処理します。
以上
実際の管理方法
届出書には管理方法を記載していますが、実際の運用も非常に重要になります。
日常的な販売状況や利用状況については、税理士が日々確認するのではなく、関与先でアプリやエクセルなどを用いて管理していただいています。
そして決算時には、在庫商品の棚卸や未使用の収入印紙の確認を行うのと同じように、年末時点で未使用となっている回数券・クーポン券の金額と枚数のリストを提出していただいています。
そのリストを基に、年末時点でまだ役務提供が終わっていない部分を前受金として計上し、翌年以降、実際に利用された時または有効期限を迎えた時点で売上へ振り替える処理を行っています。
また、通達では発行から4年以内の商品引換券等が対象とされていますが、実務上は有効期限を長くても1年以内に設定する方が管理しやすいと考えています。
個人事業では毎年決算・確定申告を行いますので、有効期限を1年以内に設定しておけば、前期末に計上した前受金は翌期中に「利用」または「期限切れ」のいずれかとなります。
これによって、前期の前受金は翌期にそのまま売上へ振り替えることができ、当期末に確認すべきなのは「当期に販売し、まだ利用されていない回数券・クーポン券」だけになります。
一方、有効期限が2年、3年と長くなると、複数年分の未使用回数券を管理する必要があり、実務上の負担は大きくなります。
制度上は可能であっても、管理のしやすさを考えると、有効期限は短めに設定する方が運用しやすいと感じています。
おわりに
回数券やクーポン券自体は、多くの業種で利用されているしくみです。
一方で、個人事業における所得税では、販売時ではなく利用時等に収入計上するためには、所得税基本通達36・37共-13の2の要件を満たし、あらかじめ所轄税務署長の確認を受ける必要があります。
しかし、その具体的な手続きや届出書の書式については、私が調べた限りではあまり情報が見当たりませんでした。
この記事が、同じような事例に直面した個人事業主の方や税理士の方の参考になればと思い記事にしました。
「ここまで必要?」と思うかもしれませんが、前受金処理で課税の繰り延べ(先送り)で節税になることから、その処理の適用についてはきちんと国のルール(今回は通達)に沿う必要があると考えています。
なお、税務署によって運用が異なる可能性がありますので、実際に手続きを行う際は、事前に所轄税務署へご確認ください。
