「記帳代行の丸投げを受けない税理士はおかしい」と言われたことがあります。
昔ながらの税理士事務所では、
・領収書を預ける
・通帳コピーを渡す
・税理士が入力する
・試算表を作る
という流れが一般的で、現在でも税理士にそれを求める人は多いです。
しかし、現在は単純に昔と同じ形を続けることが難しくなっています。
理由は、税理士が仕事を変えたからだけではなく、経理を取り巻く環境そのものが変化したからです。
そのため、昔のように「全部税理士に丸投げする」という形よりも、お客様と税理士が役割分担しながら進める形へと変わってきました。
昔ながらの「資料を渡すだけ」の経理が難しくなった理由
昔は、「領収書をまとめて税理士へ渡す」で業務が成立していました。
勤務時代は丸投げされた領収証を入力する作業を行ったこともあります。
しかし、現在は次の3つの理由で難しいと思います。
第1の理由は、お客様自身で取得しなければならない資料が増えたからです。
昔は、紙の請求書や領収書が中心だったため、待っていてもお客様のもとに請求書や領収書が届きます。
現在は、通帳やクレジットカード明細、電気代や通販の領収証など、お客様自身でログインして取得しないといけない資料が多くなっています。
当然、これらのお客様のログイン情報を税理士が預かって代わりにダウンロードすることはできません。
第2の理由は、税理士がお客様の代わりに問い合わせることも難しくなったからです。
意外とお客様がご自身で利用するサービスの内容や資料についてわからないことが多いです。
昔は、お客様が利用しているサービスに関する問い合わせを税理士事務所から行っても教えてもらえることが多かったです。
しかし、今は一般的な質問相談であっても、「契約者本人でなければ回答不可」ということがほとんどです。
そのため、資料のダウンロード方法だけでなく支払いサイクルやその他のしくみについても「全部税理士に任せればいい」が通用せず、お客様自身で理解する必要があります。
第3の理由は、国全体がデジタル化を進めているからです。
税務関係で一番わかりやすいものとしては、紙で確定申告書を出しても受取印は税務署で押してもらえなくなりましたし、これまで税務署で行われていた確定申告書の用紙の配布もなくなりました。
さらに青色申告の控除要件も年々デジタル優遇、紙冷遇になっています。
マイナンバー、e-tax、キャッシュレス納付なども進められていますし、今は確定申告用のスマホアプリがあります。
一般企業でも電気代の紙領収証の廃止(紙は有料)、署名はタブレット入力、説明書はダウンロード、支払いはキャッシュレスのみのお店など、社会全体がデジタル前提へ変化しています。
「税理士が勝手にデジタル化を始めた」のではなく、国や社会全体がデジタル化へ向かっています。
また、税理士法でも、電子化等の推進その他の取組を通じて、納税義務者の利便の向上や税理士業務の改善進歩を図るよう努めることが税理士に求められています。
当事務所では、デジタル化に不慣れなお客様に対して、必要なサポートを行いながら、より継続しやすい経理の形を一緒に作ることを重視しています。
ただし、税理士だけがすべてを抱え込むのではなく、お客様と税理士がそれぞれ役割を持つことが必要です。
以上の理由から、税理士だけが昔の紙中心の丸投げ対応を続けることは難しくなっています。
そのため、お客様自身で行う必要があることと、税理士が専門家として対応することの役割分担が必要になります。
システム化されたのは作業であり、税理士の判断業務ではない
昔は、
・お客様からの資料を会計ソフトに入力する
・資料はノートに糊付けして返す
・試算表やグラフを作成し、それを印刷して渡す
といったことを行っていたため、「作業」内容が目に見えるものとしてありました。
現在は、
・お客様は資料は撮影してアップロード、原本は自身で保管
・入力は会計ソフト(当事務所はfreee)でデータ取得して自動登録(それ以外は手動処理あります)
・試算表や各種レポートは会計ソフトでリアルタイムに連動
のため、目に見える「作業」内容が減って、税理士がやっていることがお客様にはわかりづらいのかもしれません。
しかし、税理士本来の業務である、会計の内容の確認、税務相談や判断、決算申告の確認、業務改善の提案といったことは、今も昔もかわりありません。
昔の方法しか知らない人に「ほかの税理士は毎月試算表を作ってお客さんのところに訪問しているのに、試算表を作らずお客さんのところに行かないのはおかしい」といわれたことがあります。
確かに、昔は月次処理が終わった後に数字をエクセルに入力して試算表やグラフを作って印刷して持っていくという作業をしたことはあります。
しかし、今はそのような作業自体が不要になっています。
今の会計ソフトには試算表だけでなく、各種レポートやグラフ表示が充実しているため、わざわざエクセルに入れて印刷して見せるといったことをしなくても、会計ソフトの画面を共有して説明ができます。
また、税理士が紙で持ってくるのを待たなくても、お客様ご自身でいつでもリアルタイムにチェックすることができます。
試算表の本質は紙で印刷して渡すことではなく、その数字を見て、問題がないかを確認すること、税務判断や経営意思決定につなげることです。
ところで、当事務所はfreee専門の税理士事務所として、お客様にはfreee会計を使っていただいています。
これについても「freeeをごり押ししている」と言われたことがありますが、freeeの回し者だからではなく、単にお客様と税理士の双方で使いやすいのがfreeeだと考えているからです。
口座やクレジットカードの連携、取引の自動化、領収書と取引の紐づけ、データの取り込み、画面レイアウトがなどを総合的に考えた結果です。
(この辺の考えは個々の税理士によりますし、クラウド会計でなくても税理士なしの個人で正しくできている方もいます)
freeeでデータ連携を行って自動化することで、お客様も税理士も単純作業から解放されることが多かったです。
「freeeだと自動でやるんだから税理士は何もしてないね」とも言われたことがありますが、自動化できるからこそ、freeeを税理士が確認しないといけないこと2つがあります。
1つは、お客様の取引の流れをfreeeに乗せるためのサポート。
口座やクレジットカード以外の連携できない取引を、どうすればお客様の負担を減らして安全確実に処理できるかを考えています。
基本的にはお客様の取引に合わせたインポート用のエクセルをお渡しし、それに入力、freeeに取り込みを行っています。
もう1つは、freeeの自動化やデータのチェック。
一般的な税務会計のチェック以外に、freeeでは自動化のルールやデータ取り込みが正しいかを確認する必要があります。
「freeeでちゃんとやってますから」と言われて内容見ると自動化が誤っている、残高があっていないなど「ぐちゃぐちゃfreee」といわれる状況を何度も見ています。
自動化は便利なのですが、初期設定を間違うと永遠に間違い続ける処理を自動で繰り返してしまいます。
つまり、自動化されたルールや結果を確認しなければなりません。
税理士は正しく処理できるよう、自動化のルールやデータ取り込みの確認を行っています。
これらはお客様から目に見えない部分ですが、税理士本来の税務会計の判断とクラウド会計やデータ処理のしくみを理解している税理士にしかできない仕事です。
入力や印刷といった「単純作業」をできるだけ減らして税理士にしかできないことを行っています。
おわりに
当事務所がクラウド会計やオンライン対応を取り入れている理由は、税理士の仕事を減らすためではありません。
システムでできる作業はシステムへ。
税理士が判断すべき部分は税理士へ。
役割分担することで、無理なく適切な経理を続けられる環境を作ることが目的です。
税理士の仕事を、目に見える「作業」だけで評価すると、本来の専門性は見えなくなってしまいます。