所得税と住民税は、どちらも個人が1年間の収入などを基に計算する税金です。
基本的な計算方法は、所得税も住民税も似ている部分が多く、基本的には、会社員の年末調整や個人の確定申告といった、所得税の金額を計算をすることで、自動的に住民税の金額も計算されます。
しかし、退職金をもらった場合には、所得税と住民税でその扱いが異なります。
正確には、退職金の額が国の決めた控除額より多く、退職所得が発生する場合に所得税と住民税の扱いが異なります。
その結果、退職所得がある場合は、住民税の申告をしないと不利になるケースがあります。
今回は、退職金と住民税の申告をしないと不利になるケースについて書いています。
住民税の申告しないと不利になる原因は、合計所得金額
所得税と住民税の計算は、所得(収入から経費を引いた利益)を利子や給料、事業や不動産などの10種類の内容に分けてから計算をします。
退職金は、退職所得として、その10種類の中の1つに区分されています。
合計所得金額とは、その10種類の金額を一定の方法で合計したものです。
所得税と住民税では、合計所得金額の計算にあたって、退職所得の扱いが異なります。
所得税は、合計所得金額は退職所得の金額を「含めて」計算をします。
住民税は、合計所得金額は退職所得の金額を「含めないで」計算をします。
たとえば、退職所得以外の所得金額の合計が600万円あり、退職所得が700万円あった場合の合計所得金額は次のようになります。
所得税:600万円+700万円=1,300万円
住民税:600万円 (退職所得700万円は含めない)
合計所得金額が関係するのは、上記の配偶者控除のように、結果的に税金を減らす控除関係の項目が多いため、申告し、控除を受けたほうが税金が少なくなる有利な扱いになります。
所得税と住民税では、「合計所得金額が○○円以下の場合にだけ受けられる」有利な規定があります。
(「〇〇円」のラインは内容により様々です。法改正でかわることもあります。)
配偶者控除の場合は、世帯主本人の合計所得金額が1,000万円以下の場合に控除を受けることができます。
上記の例でいうと、所得税の計算では控除できませんが、住民税の計算では控除できる、という違いが出てきます。
また、配偶者控除の場合に、配偶者自身の合計所得金額48万円以下の判定も、同じように退職金の有無で変わる可能性があります。
そのため、所得税の申告で控除できない、となっていても住民税の申告をすることで住民税では控除できる、という可能性があります。
言いかえると、所得税で控除しない、として所得税の申告だけで終わらせると、住民税では控除してもらえないという不利な扱いになります。
年末調整や確定申告での注意点
年末調整は、会社員が年末に会社で1年分の所得税の計算をしてもらうことをいいます。
確定申告しない場合は、年末調整で計算した所得税をベースに、住民税の計算も自動で行われます。
この場合、上記の退職金で合計所得金額が変わる場合の対応が気になるところです。
配偶者や扶養親族に退職金をもらった人がいた場合は、年末調整の扶養控除等申告書(右上に「扶」と書かれた紙。下記国税庁リンク先にひな形あります)の一番下に「住民税に関する事項の記入」というスペースがあります。
この用紙に記入することで、会社がその記入内容を市町村に報告して、自動的に住民税の計算がされます。
ただし、年末調整で自動計算されるのは、配偶者や扶養親族に退職所得がある場合です。
配偶者や扶養親族でない世帯主本人が退職所得がある場合で、合計所得金額が大きく変わる場合は、自分で確定申告を行うことになります。
住民税の確定申告は、基本的には所得税の確定申告と同じです。
国税庁のe-taxの場合は、所得税の確定申告の計算の後に「住民税に関する事項」が聞かれますので、ここで退職金に関する情報を入力します。
該当する場合は、市町村に事前相談が確実
退職金の状況で合計所得金額が変わって、所得税では控除が受けられなくても住民税で受けられる、という場合も、上記のように、年末調整や確定申告をすることで問題なくできるようになっています。
しかし、年末調整で書いていても、会社の給与課が処理を誤る可能性があるなどで、市町村に情報が伝わらない可能性もゼロではありません。
わたしは、税理士会の確定申告に毎年参加していますが、住民税に関する申告については、市町村へ取り次ぐよう申し送りがあります。
これは、住民税の窓口は市町村であることと、市町村によって事務手続きなどが異なるためです。
そのため、退職所得が多く、合計所得金額に影響する・会社が本当に対応してくれたか気になる場合は、市町村に事前に相談・確認するのが一番確実かと思います。
まとめ
- 退職金をもらった場合は、所得税と住民税で合計所得金額が異なる
- 退職金と合計所得金額によっては、所得税で受けられなくても住民税で受けられる控除がある
- 所得税で受けられない控除を住民税で受けるには、年末調整・確定申告
- 市町村に事前相談が確実